軍警察内部で、ある噂が広まっていた。
黒いメガデウス、そして次々現れる異形の巨大生物やロボットたち、それら関連の事案が、最近になって群発していることに関連性があるという噂だ。
署長室の椅子に腰かけるロジャーは、コーヒーの入ったカップを片手に署長のダストンに語り掛ける。
「我々が戦うべき相手は、あの黒いメガデウスと共通ではないだろうか。現にあれは何度もこの街を救っている。」
「また現れるなら、敵意があるか私が直接問いただしたっていいんですよ。」
ダストンは、昔なじみの元警察官、ロジャースミスに翻す。
「俺たちは町に現れた悪党どもを駆除するのが仕事だ。ネゴシエイターの領分を超えた行為は身を滅ぼすと思うが、いかがかね?」
やや意地悪な言い方に眉を動かすロジャー。二人の因縁と信頼が部屋を包む中、部下の警察官が扉を開け、ダストンに伝令を告げる。
「報告します。町に巨大ロボットが出現、ビルや家屋を含めた数棟が破壊されました。」
ダストンが警察帽をかぶり、部屋を後にしようと振り返ると、ロジャーはすでに部屋にはいなかった。
高級車で町を走るネゴシエイター。彼の見た、町を蹂躙するその姿は、ボディが栗色をしたドロシー1だった。
ロジャーは「遅かったか」と独白し、即座に腕時計を正面に構える。
「ビッグオー、ショータイム!」
黒いメガデウスがコンクリートを割り地面から這い出て、ロジャーはそれに乗り込む。
(CAST IN THE NAME OF GOD. YE NOT GUILTY )「汝に罪なし」
数十メートルの黒い巨体をしたメガデウスが、街を脅かすもう一つの巨体に向かっていく。
地ならしのように響く轟音、その黒い体躯から拳が伸び、栗色のロボットの胴体に衝撃が加えられる。
一歩後ろに下がったドロシー1の偽物は、両手のドリルでビッグオーのコクピットを狙う。
しかし、即座にビッグオーが放ったモビーディックアンカーの鎖にからめとられた巨体は、地面にうつ伏せで倒れる。
地面にひれ伏したロボットの頭部に向け、ビッグオーは光の軌跡による光刃を放つ。アークラインによって頭部を破壊された巨体は、機能を停止する。
「黒いメガデウスを追え!」
住民の避難誘導を完了したダストンの激励の声むなしく、ビッグオーは地中深くにエレベーターシャフトをたどって沈んでいく。
「この町はいったいどうなっちまうんだ?」
ダストンの声が空虚に響く。
その翌日、ロジャーは孤児院を再び訪れる。子供たちがドッジボールをしている中庭を抜け、休憩室でシャレメと会話を続けていた。
「先日のロボット騒動ですか、ラジオで中継を聞いていましたが、まるで映画みたいでしたね。」
一切の嘘がなさそうに語るシャレメ。
「その宝石、いつ手に入れたんですか?ずいぶん高価に見えますが。」
「いえ、これは…」
罰が悪そうに答える彼女だったが、その先の言葉を遮り、こう告げる。
「あなたが話していた祖父ですが、先日ある女性を手にかけています。」
続けて核心に迫るロジャー。
「あなたの身に着けているそのアクセサリー、祖父から贈答されたのですか?もしそうであるなら…」
シャレメの顔に視線を移したロジャーの目が悲哀に満ちたのは、彼女が泣いていたからだった。目を腫らしながら彼女は語り続ける。
「孤児院の経営は私の祖父が始めた事なんです。最初はうまくいっていたんですが、祖父の足が持病で動かなくなりました。」
「経営に苦心していた父が頼ったのがソルダーノだったんです。」
シャロメは、祖父の足が突然動くようになったこと、経済状況が嘘のようによくなっていったことを語った。そのどれもが不自然で関連性がないことに、ロジャーは訝しむ。
結論として、そのすべてがソルダーノがらみであることは間違いない。
「勇気を持って話してくれたこと、必ず真実に変えてお返ししますよ。」
シャレメの身に着けていたアクセサリーを預かったロジャーは、車で先日依頼を受けた老婦人の家に向かった。
老婦人が変死したのは1階の居間であり、死因が不明で外傷も一切なかった。ロジャーが特別な許可を得て手袋をし、部屋に乗り出す。
警察官に事情を聞くと、遺体が発見されたのはメガデウスの戦闘があった直後であり、外傷が一切なく、心臓だけが停止していたという情報だった。
「この部屋に自由に出入りできる人間は、誰がいたのかわかる者は。」
ロジャーが聞くと、警察官の一人が答える。
「老婦人の血縁ではだれもいなかったそうです。頻繁に会っている謎の男性だけが入れたという情報はあります。確かな筋の話ではありませんが。」
ロジャーは何かを確信したように現場を後にする。この町に起きるであろう災厄に備えるように、ビッグオーの格納庫へ向かった。
「ロジャー様、随分お早いご帰宅で」
「ノーマン、サドン・インパクトを連続で使用できるようにしてくれ。ミサイルのストックもありったけ詰んでおいてくれると助かる。」
ノーマンはすべてを理解したようにうなずき、ロジャーは暗闇の中をさらに暗い色をした漆黒の高級車で走る。
山奥の山中で車のライトが照らしたその先には、出店を開いていた老紳士と、意識を失った年齢、性別様々なパラダイムシティの住人たちがいた。
※③に続く
①はこちら→THEビッグオー 夢小説① - newntの日記 (hatenablog.com)