THEビッグオー SS④

不完全な整備状態のビッグオーを、1番街の中央まで運んだロジャー。

模造品の機械人形たちは、ロジャーに道を譲るようにその群れを一纏めにする。

ロジャーは、ビッグオーコクピットからワイヤーを伝って降りる。

「ご老体、あなたの計画にこれ以上、善良な市民たちを巻き込ませるわけにはいかない。」

パラダイムシティの守護者よ、どこにコアの本体があるか突き止められたかね?」

ロジャーの論法は、すでにその真実の域に達していた。どこかにコアの本体がある。

ドロシー1の純正なコアユニット、それがどこにあるか。2日考えたが核心には至らなかった。しかし、

「私はすでにそれを知っている。ルーデル、あなた自身がコアだ。」

へらへらと笑いながら顔を歪める老紳士。

「では私を自慢のメガデウスで破壊するかね?」

「いいや、その必要はない。シティ郊外から供給されている電力プラント、その開錠されない制御板にあなたのメモリーがあるからだ。」

余裕のあった表情から一転、ルーデルの表情が一気に曇る。

「なぜそれを知っている?」

「簡単な事さ、あなたの売りつけた宝石が、周囲の建物を媒介にするとき、電力の過剰な放電があった。」

「私の屋敷でも復旧の目処が立たない停電があったのでね。」

しかしここからでは今すぐ電力プラントにたどり着けない。ルーデルの顔にまた余裕が戻ってきた。

「ノーマン、頼む」

ロジャーが腕時計に声を吹き込む。その刹那、シティ全体の電圧がショートするほどの高圧電流が、電線を伝って流れる。

「これを狙っていたのか…」

昨日ロジャーは、倒したドロシー1の偽物から放電装置を抜き取り、それをビッグオーのスペア集電回路と合わせ、この日のために一案していた。

電気を最大まで開放し、シティの電線に直接電流を流したのだった。

シティからすべての明かりが消え、ドロシー1の偽物たちはただの巨大な人形と化した。電力プラントの制御板が焼き切れたのだ。

「ここまでか、私の命にももう価値がない…」

懐から小型のハンドガンを取り出した老人。それを自身の頭に突きつけんとする。

「まって!」

シャレメがドロシーに傘を差されながら叫ぶ。久しぶりに見た孫娘の姿が、ルーデルの瞳を潤ませる。

「話を聞いてあげて」

ドロシーがフォローする。

シャレメは、老人が過去に自分にしてくれたことを、反芻するように言い聞かせた。

小学校で身長が低いことを馬鹿にされたとき、友達に自慢させようと手袋を作ってくれたこと、シャレメが孤児院に勤めてから、ルーデルから始めて貰ったプレゼントの話を。

「私の負けのようだ。」

ルーデルは銃を地面に落とすと、救いを得たかのように地面を仰ぐ。

雨の中、軍警察のダストンと部下がパトカーのサイレンとともに訪れる。手錠を掛けられ連行されるルーデルの顔にはどこか安らぎがあった。

「一件落着かな?なあ、ロジャー・スミス。」

ビッグオーが地面に吸い込まれるように回収される姿を見守り、つぶやくダストン。

 

‐数日後‐

ロジャーは孤児院の行く末を案じたが、すべてが杞憂に終わった。孤児院が街の治安維持に多大な貢献をしたという記事をもとに、支援者が現れ始めたのだ。

電力プラントがショートしたことは一大ニュースになり、シティの脆弱性を浮き彫りにする懸案と認められたのだった。

ロジャーはいつもの酒場の定位置でビッグイヤーと会話を交わす。

「今回も大活躍だったじゃないか、ヒーロー。」

「私はアンドロイドとつくづく縁があるようだ。」

機械仕掛けのアンドロイドたちには、人間の心が宿っていたのかね?」

ビッグイヤーが問いかける。

「さて、どうかな。一つ言えることは、誰の心にも失いたくないメモリーがあるということさ。」

事件の被害者はだいたい100人前後だったそうだ。しかしその全員の魂が機械人形に吹き込まれることはなかった。ビッグオーがおおよそを破壊できたのもその為だった。

命を媒介に生まれる新たな脅威、私はそれを許すことはできない。

ルーデルのメモリーは焼き切れたが、本人の心にこそそのメモリーの本体があったのかもしれない。

‐ロジャー邸‐

「ロジャー様、お着変えの用意が…」

「すまないノーマン。今日もこの服装で行くことにした。」

いつもの黒いスーツに身を包んだロジャーは、ドロシーの軽蔑の視線を無視して出かける準備をする。

「お帰りはいつごろに?」

漆黒の高級車に乗り込んだロジャーは、花束を積んで慰霊碑に向かう。このシティで犠牲になった人たちの共同墓地がここなのだ。

花束を置き、軽く黙とうしてから場を離れる。帰り道に孤児院で会った子供たちが散歩をしているのを見かけ、ロジャーは軽く微笑み通り過ぎる。

モリー、この町で誰もが持っている自分を自分自身といえる存在。私のメモリーもだれかが植え付けたものなのか、それとも…。

−完-

 

①はこちら→THEビッグオー 夢小説① - newntの日記 (hatenablog.com)