THEビッグオー SS Missing elevator②

エレベータールーム内に置かれた手紙を、エレベーターに直接触れないよう回収するロジャー。

封を切り、手紙を広げてみると、

「拝啓、ロジャー・スミス様。当領土内に足を運んでいただけたこと、心から御礼申し上げます。」

「つきましては、私共の世界をご案内するため、13階にお越しいただきたいと存じます。」

後のメッセージは社交辞令で埋め尽くされており、ロジャーは数分間思案する。

このエレベーターは、何者かの意志で動いているのだろうか?

ロジャーは愛車のグリフォンの後部座席から、用意したバックパックを持ち出す。

「覚悟を決めるときが来たようだ」

バックパックを背中に背負い、エレベーターに乗ろうとしたとき、一つの人影が現れる。

「私もご一緒していいかしら?」

声の主は女スパイの異名を持つ長身の女性だった。

「エンジェル、なぜ君がここに?」

「人食いエレベーターの調査なら2人のほうが安全でしょ」

ロジャーは呆れた顔で額をおさえる。

「何が起きても責任はとれないぞ、ミスエンジェル。」

13階のボタンを押したロジャーは、エレベーターが徐々に上昇していくのを実感しながらエンジェルと会話を紡ぐ。

「なぜこのエレベーターに私が乗ると?」

「そんなの簡単じゃない。情報屋に聞いたのよ」

エレベーターが動き出してから10分が経過したが、未だに13階にはたどり着かない。ロジャーが腕時計で確認した分数は13分。そして扉が開く。

異世界の客人をもてなす作法が特殊でなければいいのだが。

ロジャーは地面へ一歩を踏み出す。古ぼけた煙突や焼き畑農業で焦げた地面が見える。牧草の香りやどこか郷愁を感じさせる雰囲気が辺りを包む。

「ここはいったい…」

エンジェルがロジャーの先を歩き、エレベーターの扉から一番近くにいた、東洋系の顔だちをした老人に話しかける。

ごきげんよう。いきなりなんだけど、この町の案内所みたいなところってどこにあるのかしら。」

ロジャーも会話に加わる。老人のたどたどしい説明だったが、西に2kmのところに役所が存在するらしい。

歩みを進めるロジャーとエンジェル。途中で自販機を見つけ、パラダイムシティの硬貨を入れてみたが、普通に飲み物が買えた。

この空間はいったいどこなのだろう。先ほどの東洋人に言語が通じたのはなぜなのか。謎が残る中、役所にたどり着く。

役所には、40代後半ほどの、警備員風の男が椅子に腰かけていた。

カウンター越しにロジャーが問いかける。

「この町の住所を番地まで正確に教えていただけますか?」

警備員風の男は心底面倒くさそうに答える。

「タイワンガザミ国、アリゲーターガー市、アメニシキヘビ州、アフリカマイマイ街、13番地だ。」

「はい?今なんとおっしゃられましたか?」

「だからタイワンガザミ国、アリゲーターガー市、アメニシキヘビ州、アフリカマイマイ街、13番地だ。覚えたか?」

私の頭がおかしくなってしまったのだろうか。コメディ映画のような冗談を聞いているのか?

スタンダップコメディが流行ってるんですか?」

機嫌を損ねた警備員に気圧されたロジャーは、一歩二歩と後ろに後退する。

「有力な情報を得たわよ、ネゴシエーター。」

エンジェルの情報収集の妙には敬服の意を表さねばならない。

結論から言うとこの町はパラダイムシティではない。

役所に置いてある情報端末にめぼしい人物名を入力したが、この町のどこにもパラダイムシティの住人がいないのだ。

それだけでなく、工業、畜産、生活様式すべての体形が違う。まさにパラレルワールドと呼ぶにふさわしい場所なのだろう。

ロジャーはバックパックから無線を取り出す。そしてロジャー邸に周波数を合わせてノーマンを呼び出す。

「おやロジャー様、随分音の聞こえが悪いようですが、いかがされましたか?」

「ノーマン、この周波数を記憶してメモに残しておいてくれ。」

ロジャーは憑き物が落ちたように安堵の表情を浮かべる。どうやら通信手段はあるらしい。

「せっかくだからその辺を散歩しましょう。宿も探さないといけないし。」

2人は何とも言えない雰囲気で13番地の近辺を歩く。

いかにも民宿といった様相の宿を見つけたロジャーは、ロビーでカウンター越しに係員に話しかける。

「一泊何ドルですか?2日ほど宿泊したいのですが。」

シワが深く刻まれた、柔和な顔をした東洋系の老婆が、50ドルを要求し、金貨を渡すと2階宿泊室のキーを授けてくれた。

エンジェルはいつの間にかいなくなっていた。小綺麗な他の宿に泊まることにしたのだろう。

「ユカタ…?」

老婆が用意してくれた浴衣に着替えたロジャー。大浴場で湯に浸かり疲れを癒やす。

宿泊室では、食べたことのない謎の魚料理が運ばれ、ロジャーは物珍しそうに口に運ぶ。

「この町は昔伝承で聞いた二ホンという国に瓜二つだ。」

いつまでもここにいるわけにはいかない。明日の計画を思案しながら眠りにつくが、慣れない布団で寝ていたロジャーはうなされながら夜を越したのだった。

 

※Missing elevator③に続く

①はこちら↓

THEビッグオー SS Missing elevator① - newntの日記 (hatenablog.com)