ロジャーは早朝からエレベーターの調査に乗り出す。1階に降りてみたが、整備室があるだけで、この町に存在する何の変哲もないエレベーターと化していた。
エンジェルと合流した後、バックパックから取り出した、先日手に入れた新聞記事を読み返す。
「ねぇ、この記事に取り上げられている男って、この町にいるんじゃない?」
「調べてみる価値はありそうだ」
ロジャーはリサーチした結果手に入れた、その男の顔写真をもとに、住民たちに聞き込みを始める。
「この男性に見覚えは?」
聞いた人数が3人目になり、長髪の20代後半と思しき男がこう語る。
記事の男はこの町に半年前に来たらしく、来てから暫くは町を散策していたのだが、ある工場に住み込みで働き始めたらしい。
その男を見なくなったのは2,3か月前で、それ以来誰も彼を見た者はいないというのだ。
男が務めていた工場を訪ねると、工場長が
「あぁ、そいつなら辞めていったよ。給料3か月分貰ってとんずらさ。」
「どんな会話をしたか覚えていますか?」
男は口を開けばパラダイムシティの話をしていたらしい。自分の経営していた店に来た客たちを皮肉ったり、恋人が付き合ってから4年で雲隠れした失恋話を愚痴っていた。
居場所について聞くと、ラーメンという鍋料理を提供する店にいるらしい。
田舎道を抜け、タクシーでたどり着いたひなびた料理店。入ってみると、
「いらっしゃーせー!」
例の男がはつらつと声をかけてきた。カウンター席に座ると、ガラスのコップに入った水が提供される。
「メイガスさん、ですね?少しお話があるのですが、お時間をいただきたい。」
店が午後休業の時間になると、3人は核心に至るための会話を紡ぐ。
「なぜあのエレベーターに乗ろうと?」
「実験で思ったんだよ。あのエレベーターはシティの外に通じているってな。」
「シティの外に出る方法があるってこと?」
メイガスは実験で、自分を招待する手紙を読んだ。手紙の内容が、その時の自分の近況まで記していたことに不自然さを感じた。
「手紙にペンでこう書いて2階に送ってみたんだ。お前たちに未来がわかるか?って」
帰ってきた手紙には、シティで近いうちに強盗事件が起きると書いてあった。最初は悪趣味なハッタリだろうと思っていたが、2日後にその事件の新聞記事を読むことになった。
「それで思ったんだよ。この町は俺たちの故郷と時間の経過が違うってな。」
ロジャーはその持論に概ね同意した。ロジャーの実験でもエレベーター内と外で時間の経過が違ったためだ。
それが事実だとしたら、パラダイムシティで起きる未来がこの世界なら予測できるということだ。
ノーマンに連絡すると、シティはロジャーがこの町に来てから半分の時間しか経っていないらしい。
「この町から帰還する方法は…」
ロジャーの表情が少し険しくなる。
民宿に戻ったロジャーは、ロビーで噂話を耳にする。銀行で巨大ロボットが暴れ、金品を奪った後逃走し、街に大きな損害が出たという話。
さらに浴場に行くと、脱衣所で、黒いメガデウスがそれを止めようとするが、タイミングが遅く銀行は全壊するという話だった。
話が不自然すぎることに不安感を覚えるロジャー。まさにパラレルワールドだ。
しかしおおよその合点は行った。おそらくそれがシティで今後起きる事件であり、私はそれを予知したのだ。
「地域住民の雑談が事件のヒントとは。しかし私の指針は決まった。」
パラダイムシティに戻らなければ。おそらくあの小悪党のベックが画策した計画だろう。以前から銀行の周囲を嗅ぎまわっていたのを知っている。
ロジャーは眠りにつく前に思案する。この世界とシティの時間差が半分であるなら、今日中にこの町を抜け出さなければ。
銀行を守るには事件が起きる数十分前には帰らなければいけない。
時計を気にしたロジャーは一か八かの作戦に出ることを決意した。
広大な草の生い茂る更地に移動したロジャー。
「ビッグオー、ショータイム!」
黒いメガデウスが更地のやや南西から地面を破って這い出る。乗り込んだロジャーは、
超大型の荷物搬入用のエレベーターにビッグオーを乗せるべく歩き出す。
メイガスの働いていた工場は、異界へと続くエレベーターの製造工場だった。
メイガスが実験で立証した、過剰に重い荷物を載せた際、送った最初の荷物と入れ替わっていたという特質を利用するという寸法だ。
搬入用エレベーターに格納されたビッグオー。ロジャーとエンジェルは固唾を飲んでコクピットから見守る。
「失敗したらどこに行くのかしら」
「私はビッグオーを信じている。どんな状況でもだ。」
ロジャーとエンジェルが目を覚ますと、そこはパラダイムシティの兵器用コンテナ搬入口だった。
「私たちの使命を果たそう、ビッグオー。」
Missing elevator④に続く
①はこちら
THEビッグオー SS Missing elevator① - newntの日記 (hatenablog.com)