ロジャーなきパラダイムシティ中央銀行に、ベックの悪趣味な金色の巨象が迫る。
「ハハハ~ロジャー坊ちゃんがいない今、この町は俺の遊び場ってわけだ!」
取り巻きのいつもの2人も、にやにやしながら銀行に照準を合わせる。
「ちょ、ちょっと待て?いま何か嫌な地響きが聞こえなかったか?」
ベックが冷や汗をかくように言うと、パラダイムシティの守護者が目の前に現れた。
1歩ずつベックの操る鉄の塊に向かってくる。
しかしベックには余裕のある表情が張り付いていた。
「無法にはそれなりのリスクが伴うと知りたまえ、ベック。」
「ちょこざいなぁ!」
「この真ベックザグレート・ダイザーZ・ドラゴン・鋼鉄・超電磁・宇宙大帝・大空魔竜・百獣王・超獣機神・戦国魔神スペシャルが、相手になってやろうじゃぁ…」
「ビッグオー、アクション!」
口上の途中から両手を水平に掲げていたビッグオーは、クロムバスターを発動しようとしていた。
「この冷血野郎!人が名乗ってる途…」
光の軌跡がベックの乗っているコクピットをきれいに外し直撃、自慢の装甲はあっけなく崩壊する。
ベックの乗った鉄の塊は地面に倒れ、銀行まであと数十メートルというところで彼らの計画は挫けたのだった。
「あとはダストンに任せよう。ノーマン、今夜の食事はカレイの煮つけを頼む。」
「はて、聞いたことのない料理ですな。どのような料理か特徴を教えていただけますか?」
「心配はいらない。煮つけを作るために、秘伝のたれをある老婆から預かっているからね。」
帰宅途中に寄った、いつもの酒場でビッグイヤーと会話するロジャー。
「で、今回の依頼者はどうなったんだい?」
「私の報告を待たずに依頼者は異世界へ旅立ってしまったよ。」
「この世界ではないどこかを求めていたのは彼だったわけだ。」
異世界に旅経ちたいという若者が後を絶たない、そんな話を続ける2人。
後日分かったことだが、あの異次元エレベーターは定期的にシティの若者を異世界へ送っていたのだった。
ここではないどこか、そこにどんな理想があるのだろう。それは個人の胸の内にしかわからない。
「私としては今の世界で楽しく生きてほしいものだ。たとえ今が困難であっても。」
ロジャー邸で食事をとるロジャー、ドロシー、ノーマンの3人。
「あの異世界の町は我々の法則が通じない世界だったらしい。」
カレイの煮つけの骨を外すのにてこずりながらロジャーが語り続ける。
どうやらあの世界は質量の存在しない空間で、異世界でありながらロジャーがビッグオーを呼び出せたのは、自分が最も信頼する依り代を実体化させる作用があったためだ。
「あの老婆にとってそれは私が宿泊した宿、そして行方不明の彼にとっては料理店だったというわけさ。」
「じゃああのエンジェルっていう女の人にとっての依り代は何だったのかしら。」
ドロシーの問いにロジャーは、全くわからないという様子で首を横にかしげる。
「おやおやロジャー様、私にはなにかはっきりわかりますよ」
「私も同感だわ。本当に鈍いのね、あなた」
ロジャーは腑に落ちないという顔で食事を進める。
「ノーマン、次はチクゼンニを作ってくれ。」
ノーマンは異世界から預かったレシピ本をもとにこれから料理をするだろう。ロジャー邸に日本料理のエッセンスが到来し、夜は更けていった。
‐完‐
①はこちら
THEビッグオー SS Missing elevator① - newntの日記 (hatenablog.com)