愛車のグリフォンを駐車場へ停めた後、地下街の集会所へたどり着いたロジャー。
人が多く混雑する群れをかいくぐって、代表と思しき人物を見つけた。
教祖が仰々しく力説する。
「この水には神に等しい力を授ける力があるのです」
「まやかしだ。信じてはいけない。」
そっとつぶやくロジャー。パラダイムシティの守護者を使役する、ネゴシエーターの瞳に真実が宿る。
集会が終わると人々が帰っていく。1000ドル相当の、小瓶に入った液体を大事に抱えながら帰路につく人々。
一人の少年がロジャーの目に止まる。他の参加者が帰っていくのに、一人だけ座って動こうとしない。
「どうしたんだい?お父さんやお母さんは?」
「いない」
「一人で来たのかい?」
ううん、と首を横に振る少年。この宗教団体が経営している児童養護施設に住まう少年らしい。
少年は魔法の水が欲しいという。誰も身寄りがいない自分に家族を用意してほしいというのだ。
「君の大事な人は誰だい?」
「僕に大事な人なんて…おじさん僕に意地悪してるの?」
「そうじゃないんだ。」
ロジャーは自分の身の回りの人を大事にし、自分の守りたい人を思いやることが幸福につながるのだと教えた。
「僕にそんな生き方できっこないよ。」
「いいや、もう君は変わっているはずだ。こんなまやかしの水に頼らなくてもね。」
「パラダイムの語りにこんな話があってね。」
「雨は気まぐれに降る。人が気まぐれに生きるように。でもその雨が降ったりやんだりすることは人にはどうすることもできない。」
「悲しい時に落ち込み、悔しい時に涙を流す。それもどうすることもできない。」
「君が涙を流したり笑ったりすることは、君が予測することも変えることもできない。」
「しかし人はそれを変えようとする。今日の涙が明日の自分を強くするように。」
ロジャーはその少年とひとしきり会話した後、彼が施設に戻っていくのを見送り、本来の仕事であるネゴシエーションへ向かう。
「この会を主催したのはあなたですね、エーカー氏。」
「私のやることに異を唱える人間はお前が初めてだ。」
ロジャーの持論は、交渉は対等であるべきだというものだ。
「あなたが売っているのは幸福の水ではない。このシティの住人たちを手中に収めるための計画を売っているんだ。」
ほう、気づいたかという顔でロジャーを値踏みする老人。ロジャーは臆することなく語る。
「この地下街で水を買った人物を監視し、幸福だと感じることを仕組む、それが狙いだったのだ。」
「あなたは自分がコントロールできる事象を改変し、水を買った人々に対して、その威光と自身の求心力を見せつけたのだ。」
エーカーは取り巻きのボディーガードに目で合図してロジャーを囲う。
ロジャーはワイヤーガンからワイヤーを窓の桟にひっかけ、徐々に降下し地面に降りて、建物から逃走することに成功する。
エーカーはボディーガードにロジャーを追うよう指示する。ロジャーは自動操縦で近くに来ていた愛車のグリフォンに乗り込む。
取り巻きから逃げたロジャーは、ノーマンからの無線を受け取る。
「ロジャー様、1番街で巨大な生物が暴れています。」
「わかった。ビッグオーで迎え撃つ。」
裏道からシティの中央へ出たロジャーを乗せたグリフォン。ロジャーが名乗る。
「ビッグオー、ショータイム!」
(CAST IN THE NAME OF GOD. YE NOT GUILTY )
「汝に罪なし」
「大きさに似合わず敏捷なようだ、しかし」
ビッグオーは蛇の動きを読むようにアークラインを放つが、しなるような動きにかわされる。
牙を見せながら威嚇するその巨体はビッグオーのあらゆる攻撃を避けてしまう。尻尾からの一撃で体勢を崩したビッグオーに、蛇は巻き付く。
ビッグオーの装甲がきしむが、ロジャーはプラズマ・ギミックを発動。黒いメガデウスから放たれる黄金の光が蛇の体を消滅させた。
ビッグオーは地面に沈みながら回収される。ダストンはいつものように見守るが、
「この町の修理にかかる費用は誰が出すんだ?」と始末書のことを暗算する。
ロジャーは一旦ドライブインに留まり、エーカーの洗脳計画を止めるための算段を整える。
「インディアンバーガーセット、ドリンクはラッシーで、サイドはコーンサラダ」
慣れた注文をするロジャー。運ばれてきたラッシーを口に含みながら地図に視線を向ける。
「この地形で行おうとしていることはおそらく…計画を止めなければ。」
2段重ねのハンバーガーの残りを包装紙に包み助手席に乗せると、ロジャーは足早にグリフォンに乗り込む。
Dark Water③に続く