THEビッグオー SS Rogers holiday①

休日を利用して、ノーマン、ドロシーとともに市場での買い物に繰り出したロジャー。

「ロジャー様、邸宅でお休みになられてもよろしかったのですが、非常に忍びない。」

「いいや、ノーマン。こういった経済の偵察も仕事の一つだ。」

ロジャーは野菜売りに目を向けるが、信じがたい現実に直面する。

「トマトが1個8ドル?玉ねぎ4つで12ドル60セント!?」

ロジャーの金銭感覚は決して逸脱していない。トマトなど1ドル20セントもあれば買えるはずなのだ。

「ノーマン、いつもこんな法外な値段で野菜が売っているのかい?」

「あらロジャー、あなた知らないのね。」

ドロシーが新聞記事の一面について語る。パラダイム公表の野菜の不足についてだ。

前年から野菜の収穫が不安定になり、とてつもないインフレが起きた。トマトが8ドルなどありえないことだが、パラダイムシティでは現実に起きてしまっている。

ある筋の話では虫害や土壌の汚染などが有力だが、詳しい原因はわかっていないらしい。

野菜売りを抜けて次に足を運んだのは雑貨店だった。

珍しい装飾品、食器やかばんなどが並ぶが、ロジャーが気になったのは、どう見ても偽物なのに800ドルもする陶芸品たちだ。

「こんな安っぽい壺が800ドルも?素人の私にも偽物だと見抜けるが…」

ノーマンは、石鹸とロジャー愛用の整髪剤をレジに持っていき、金貨で払い会計を終える。

ロジャーは終始、雑貨店のインチキな値段設定に内心引きながら店を後にした。

シティ市場中央のイベントで、福引を開催している。ノーマンはお得意の買い物センスで福引券を30回分はため込んでいた。

「ドロシー、是非引いてみてください。」

ドロシーが無言で福引の抽選箱を引く。赤い球や青い球が連続で出るが、トイレットペーパーが積み重なっていくだけだった。

27回目で転機が訪れる。なんと金色の球が出たのだ。

「すごいじゃないか、ドロシー!」

少年に戻ったような屈託のない笑顔を見せるロジャーを、全く見ずに景品一覧の張り紙に目を向けるドロシー。

「特等の温泉巡りツアー券です。おめでとうございます!」

特等は1個しかなく、一行が奇跡的に引き当てたのだった。入浴などする必要のないドロシーは何とも言えない表情をしている。

邸宅に帰った一行は、今日の福引での一件で話題が盛り上がる。

「ノーマン、今日は私も料理を手伝おう。」

ロジャーは卵料理を得意としている。スクランブルエッグならお手の物だ。

しかし予想に反して難しいレシピ本を片手に頭を悩ませるロジャー。

メレンゲの作り方がわからず、右往左往するネゴシエーター。結局ノーマンにすべてを任せてテーブルにつく。

仕事の依頼リストに目を向けて仕事の算段を練るが、直近で受けた内容が目に留まる。

夫の浮気調査の依頼だったが、どう考えても私の仕事ではない。ネゴシエーションが何でも屋と化してきていることに、小さなため息をつく。

他には子供が勉強をしないだとか、運気が上がるパワースポットの調査以来だとか、正直探偵に頼んでくれというものばかりだ。

ビッグオーで巨獣を倒すだけが私の仕事にならなければいいが」

ネゴシエーターとしての存在理由が曖昧になってきたところで、料理が運ばれてくる。

ウェルシュケーキとビーフストロガノフをメインにしたディナー。ロジャーはの会心の出来である料理に舌鼓する。ドロシーはいつもながら食器をスプーンでつつく。

「明日も休みだったな。各地にアポを取りに行ってくるよ。」

ロジャーの明日の予定が決まり、夜は更けていく。

毎日日課にしている小説を読む時間。内容は時空を超える力を持つ男が奇妙な世界に足を運び入れるが、現代の知識で生き抜くというストーリーだ。

自分がこの力を持っていたら、奇妙な世界で生き抜くことが出来るだろうか?と思考する。

 

隣町で空き巣が横行しているという問題の調査、それが目下の仕事内容だ。明日に備えて眠ることにした。

翌朝、毎度のごとくピアノの音で目覚めたロジャーは、愛車のグリフォンのエンジンを始動しモーニングコーヒーを含む。

何気ない休日が始まる。誰にでも休息が必要な日もあるだろう。

 

Rogers holiday②に続く