ロジャーは空き巣の横行している3番街へ偵察も含めて駆り出した。
「住所は確かにここだが…」
ロジャーは謎のネオンが光るカジノらしき建物の前で思案する。場所は果たして本当にここで合っているのだろうか。
ドアを開けて中に入ってみると、トランプやチップを賭けるテーブルに、数人の人だかりが出来ている。
ディーラーらしき婦人にロジャーは問いただす。
「空き巣で困っているのは?」
本当のことだと話す婦人の話を聞き、どうやらこの建物で間違いなさそうだと確信する。
事をたどれば先月、金品を管理している倉庫に空き巣が入り、数千ドル以上のパラダイム紙幣や金貨が盗まれたのだという。
あまりにも証拠のない事件のため、警察を頼っても全くらちが明かないという。
空き巣にあったのは深夜であり、物音が全くしなかったという。倉庫はいつも電気が消えていて、家屋と密着しているため、何か大きな音がすればまず気づくらしい。
金品をしまってある金庫は、複雑なダイヤルの組み合わせで守られていたらしく、薄暗い深夜の倉庫で開錠するのは至難の業だという。
「倉庫に出入りできる人は?」
婦人以外には、警備やメンテナンスで入る数人だけだという。とくに怪しい人物が近所にいるということもないらしい。
「では後日また来ます。正式な調査は追って連絡を。」
帰ろうとしたところ、ディーラーの婦人が少し賭けてみないかと持ち掛ける。ロジャーは普段ギャンブルをしない。しかし金品を賭けないならとテーブルにつく。
配られたトランプで行うのは、ブラックジャックだった。ロジャーの正面テーブルに2枚のカードが配られる。
スペードのキングとダイヤの7が配られる。並みのギャンブラーならここでキープしてしまうが、大胆にコールをし、もう1枚カードを引く。
参加者は全員で8人で、最もいい手札はハートのジャックとクラブの10のペアだった。
ロジャーが広げた手札は、スペードのキング、ダイヤの7、クラブの5だった。
「いやはや、私の勝負運もまだまだだ。」
合計22点でバーストしてしまった。やはり慣れない分野で勝つのは容易ではないらしい。
一通り話を聞いたロジャーは、アポを取ると愛車のグリフォンで金庫の製造所を訪れる。
金庫のダイヤルについて聞くと、素人が一発で開けるなどほぼ不可能だという。
実際のダイヤルを手にレクチャーを聞くと、相当に複雑な何重ものロックがかけられており、金庫の扉を開けるときには金切り音がするということだった。
この金庫を使って盗難が起きたこと自体がなく、たとえ盗難があっても当社は一切保証しないというらしい。
いったいどうやって金庫を開けたのか、謎は深まるが製造所を後にする。
高速道路を抜け、喫茶店に立ち寄る。
「カプチーノを砂糖なしで」
お得意の手早い注文が終わると、やがて運ばれてくるティーカップを片手に資料に目を運ぶ。
するとリラックスタイムに小悪魔の手が迫る。
「ご一緒してよろしいかしら」
ロジャーが顔を上げると、そこには天使の名を冠した女スパイがいた。
テーブルに座ったエンジェルは、ロジャーに話しかける。
「最近の仕事は順調そうね、あ、そこの人、キャラメルマキアートミルク多めね」
「いつも私に音もなく近づいてくるが、何が目的なのかな?」
「そんなの決まってるじゃない。このシティの謎に迫りたいだけ」
それほど仲良くない2人は世間話の体で会話を紡ぐ。
「金庫のダイヤルをどうやって開けたか知ってるんだけど?」
ロジャーの顔色が変わる。なぜ知っているのか、いいやそれよりも真実が知りたい。
「金庫のダイヤルを突破した男がいるんだけど、それが人間じゃないらしいの。」
「人間じゃない?」
エンジェルが言うに、ドロシーとは違うタイプの人間ではないそれが行ったことらしい。
音もなく歩き、複雑な暗号ですら容易に解いてしまう人ならざる者らしい。
「ではその存在の所在は?」
それは自分で調べてと店を後にするエンジェル。より謎は深まった。
「明日も休日だが、今日はあまり休めなかった…」
ロジャーは邸宅に戻り、いつも通り食事を済ませ、寝床に入る。
日課の小説を読むが、あまり内容が頭に入ってこない。普段やらないギャンブルで神経が高ぶっていたのだ。
「慣れないことはするものではないな。」
照明を消して眠りに入る。一日が何気なく終わるのは、人が明日の重圧に押しつぶされないようにするための、何らかによる計らいなのか、私には答えが見つからない。
それでも明日はやってくる。日々を懸命に生きるのがそれに対する答えだ。
※Rogers holiday③に続く