ロジャーは地下水脈の流れを管理する施設を訪れる。
「最近何かおかしなことは?」
施設の管理員に問いかける。
水を調節するバルブが不調で、亀裂が入ったり水が溢れることが頻発しているらしい。
管理責任者をしても全く原因がわからず、おそらく水が大量に流入していることが原因だそうだ。
その施設では毎日水の流れを制御しているが、地下街への水の供給率は全体の3割で、シティ全体の水を管理しているわけではないらしい。
「水の流れや勢いを変えるときはどんな工程で?」
制御パネルで指示を出すしか方法がないという。一部の権限を持っている役員にしかできないらしい。
「どうやら悪い勘が当たるかもしれない。」
グリフォンに乗り込みその場を後にするロジャー。地下水脈と通じている下水道のトンネルへと足を運ぶ。
仕事の際にいつも持ち運んでいるトランクを開け、酸素ボンベ、吸入器、ヘッドライトが一体化した装備を取り出す。
ロジャーは下水道へとつながるトンネルに入り、装備したライトで行き先を照らしていく。
数キロほど進んだときに、溜池に水が数十メートルほど累積しているのを見つけたロジャーは、
「まるで湖だ。しかも何かが動いている…?」
溜池を照らすライトには、小魚ほどの大きさのウナギのような生物がうごめいているのが見える。
「まさかこれは…」
ロジャーは探索を終えてグリフォンへ急ぎ足で駆けつける。エンジンを始動した愛車に乗りながら思考を巡らせる。
「あれは先ほど戦ったウミヘビの稚魚だ。私の推論が正しければ…急がなければ」
ロジャーは地下水脈の根源である、水を放出する取水塔へと向かい、
「ビッグオー、ショータイム!」
ビッグオーを呼び出す。
黒いメガデウスが取水塔を鉄拳で破壊する。
「私の主義には反するが、やむを得ない!」
取水塔を2個、3個と破壊する。そして取水塔の根元には緑色に輝くクリスタル状の木の根元があった。
ビッグオーは緑色のクリスタルを照準に収め、オーサンダーの光をその腕にまとい、
「このシティに災厄を運ぶ輝きは、ここでフィナーレだ!」
すべてのクリスタルを破壊する。消滅したクリスタルを見てロジャーは事件の解決を確信し、ロジャー邸に帰る。
事件の顛末を聞いたノーマン、ドロシーがやや不安げな表情で問いかける。
「そんな恐ろしい計画、止める前に帰ってきていいのかしら」
「ロジャー様、まだ脅威は去っていないのでは?」
「いや、これでいいんだ。」
ロジャーの顔には決して安堵はなかった。しかし事件は一応の終息を見せたのだ。
魔法の水で信者を増やし、地下街を自分たちの支配下に置こうとした教団。そしてシティを巨大ヘビで破壊して自分たちだけの楽園を作ろうとしたのだった。
ロジャーいわく、あの教団の野望はすべて打ち砕いた。
あの稚魚たちは全個体が巨大ウミヘビになるだけの危険があった。
しかしクリスタルであるデーモンシード(ビッグオー本編を参照)を生物が極限まで成長するように品種改良したらしく、
それを取水塔から流し、ある程度成長した稚魚たちを水の流れに乗せてモンスター化させるというのが手口だったらしい。
もう地下街にもシティにも危険はない。それどころか目標を失った教団は自滅していくだろうとロジャーは語る。
ノーマンはほっと胸をなでおろし、
「本日のデザートです。ドロシーにも手伝ってもらいました。」
運ばれてきたのはザッハトルテだった。ロジャーは外観に何ら問題がないケーキを口に運ぶが、
「ドロシー、何を入れたんだい?」
「今日市場で見かけたスパイスを入れてみたの。」
「私は止めたんですが、ドロシーがどうしてもというので」
「ケーキにはバニラエッセンスが限度だと思う私がおかしいのだろうか…」
苦い思い出とともにロジャーの夜食が終わる。
教団のその後は…自然に消滅するのだろうか、自室で思案するネゴシエーター。
翌日、例の教団唯一の良心である、養護施設を訪れたロジャー。
シャレメの働く孤児院が、シティ全体の保護施設を自分たちの系列に収めたことで、シティの全保護団体が存続に動き出したのだった。
ロジャーは先日話をした少年が、友達と仲良くサッカーをしているのを見かける。ロジャーに手を振って微笑むその姿は、以前の孤独な少年ではなかった。
「テレビゲームやアニメーションの話題で友達ができたらしいですよ、そんなことよりなぜここに?ダストン巡査。」
ダストンがパトロール中を装ってロジャーに話しかける。
「なぁ、あの取水塔の修復なんだが、このシティの備蓄費用を何割奪ったか、興味ないか?」
なんのことやらと両手を広げクエスチョンポーズをとるロジャー。舌打ちをして帰るダストン。
このシティにもう涙の洪水は起きない。人々が暮らすこの町に、降るのは雨だけで十分だろう。
‐完‐
Dark Water①はこちら
THEビッグオー SS Dark Water① - newntの日記 (hatenablog.com)