THEビッグオー SS③

「そこまでにしていただこうか、ルーデル氏」

暗闇の中、ロジャーの言霊が反響する。腕時計から放たれたライトを掲げ、静寂の中老人に語り掛ける。

「おやおや、押しかけのお客さんにしてはずいぶん騒々しいリクエストだ。」

「私はあなたの計画を阻止するために来たのです。そこにいる方々を開放する気は?」

シャレメの祖父、ルーデルは、ソルダーノが打ち上げたアンドロイド指令計画の強力な出資者だった。

彼らが理想としたのは、差別のない世界。アンドロイドやロボットが世界をクリーンで善良にするという理念の下、同盟を誓っていたのだった。

「私を止めるならザ・ビッグが10体は必要だが、君にそれだけの力があるかね?」

「ソルダーノはご老体の足が自由に動くように機械化し、あなたはアクセサリーを売って得た資金で孤児院を経営していた。」

「あなたの計画はこうだ。ドロシー1のコアユニットの複製品を安価で富豪たちに売りつける、その宝石を身に着けた人々の生命力を吸い取り異次元の力を引き出した後、周囲の建造物を媒介にロボットを量産する。今すぐそこにいる人たちを解放したまえ。」

「その真実にたどり着く人間が、私の協力者であればな。しかしもう遅い。」

危険を察知したロジャーは一目散に後ずさる。地面が割れ、大量の土砂が崩れる音がした。

ダストンの勤務する警察署に、おびただしい件数の電話コールが鳴り響く。

「1番街も4番街も巨大ロボットだらけだ!戦闘車両と機銃だけでどれだけ被害を減らせるか、この町はもはや戦場だな。」

‐同時刻ロジャー邸宅‐

「おや、ドロシーお出かけですか?」

「ちょっと野暮用を思い出したの。」

ドロシーは傘を持ち出して地下鉄へ向かう。警察無線をジャックしたノーマンが、イヤホンをドロシーに携帯させ、見送ったノーマンはビッグオーの整備室へと足を運んだのだった。

ビッグオー、ショータイム!」

(CAST IN THE NAME OF GOD. YE NOT GUILTY )

「汝に罪なし」

ビッグオーがメインセンサーから明りを煌々と光らせ、4番街の喧騒に頭から姿を現す。

すでに目視できるだけで、20体は暴れているドロシー1の哀れな姉妹たち。ロジャーの法を揺るがす存在を、黒い巨体が1体、2体と片付ける。

「招かれざる客人たち、多勢だが1体1体は大したことがないな!」

サドン・インパクトで体を貫かれた虚影が6体を超えたあたりで、杭打機の限界がやってくる。

「それならば、客人たちをミサイルのパーティーでお出迎えするとしよう。」

ビッグオーの胸部からミサイルの雨が降る。偽ロボットを19体まで破壊した後、ミサイルの残弾も尽きる。

パラダイムシティ1番街‐

「機械の徒たちよ、世界の変革を促すのだ、えひゃははは!」

ルーデルの狂気が街を染める中、ドロシーがシャレメのいる孤児院にたどり着く。

「一緒に来てほしいの」

「えっ…ちょっと、えっ?」

ドロシーは問答無用でシャレメを両手で持ち上げ、おぶった後、ノーマンからの無線を頼りに、1番街の中央へ向かうための切符を高速で買い、鉄道に向かう。

ビッグオー4番街のすべての破壊者たちを片付けた後、格納庫で付け焼刃の整備を行う。

「腕周りの駆動系が30%の損傷を受けています。もうパンチはできないでしょう。」

「足が動けば十分だ。できる限り直してくれればいい。」

1番街のシャフトへビッグオーを輸送する準備を整えるノーマン。ロジャーは、今回の仕事最後のネゴシエーションへ向かう。子供たちを救いながら、街を戦火で染めんとする彼のもとへ。

荒れた土地と化した4番街でベックが火事場泥棒を行う。取り巻きの2人が、

「ボスゥ、価値のあるもんは全部運び出されてますぜ。」

「馬鹿野郎、こんな金持ちだらけの町に、金目のあるもんが残ってないわけねぇだろうが。」

「ボスゥ、家も崩れかけで危ないわよぅ、早く撤収したほうが…」

あきれた3人を尻目に、地下鉄ではドロシーとシャレメを乗せた列車がダイヤ通りに進む。

「あなたのおじいさんがどうして孤児院の存続にこだわったか聞かせてくれる?」

「祖父にとってあの場所は思い出なんです。亡くなった祖母がいつも笑顔で過ごしていたのがあそこだったんです。」

ルーデルの人生は決して平坦なものではなかったらしい。妻と駆け落ちした後、アルバイトで体を酷使しながら必死で勉強し、試験に合格した後は国税局に勤めていた。

ルーデルがソルダーノと出会ったときから計画が始まり、孤児院の経営を担うことになった後、数年で妻が息を引き取ったのだった。

「祖父は祖母がいなくなってから宝石の研究に没頭し始めたんです。私や子供たちの前では優しかったんですけどね。」

列車内でアナウンスが鳴る。

「当車両はここまでの運行となります。この先への運行は危険と判断したため、次の駅でいったん降りていただく運びとなりました。」

「行きましょう。おじいさんを止めるべきだわ。」

列車から降りた二人は駅前に置いてあったロジャーの愛車に乗り、自動操縦で1番街の渦中へ向かう。

※④に続く。

①はこちら→THEビッグオー 夢小説① - newntの日記 (hatenablog.com)

②はこちら→THEビッグオー 夢小説② - newntの日記 (hatenablog.com)